COLLABORATION
アルミ×ファッション
Part2 アルミで変わる、アパレル売り場の未来
ECOALF「アルミ什器」開発の裏側に迫る
Featuring
三陽商会 事業統轄本部 事業本部 コーポレートブランドビジネス部エコアルフ課長 兼
エコアルフ・ジャパン取締役
下川 雅敏さん
Interviewer
UACJ
権藤 隆範
Interviewer
UACJ金属加工
飯田 あいり
サステナブルファッションブランド「ECOALF(エコアルフ)」とのコラボレーションによって生まれたアルミ製店舗什器シューズタワー。前回に引き続き第二弾の記事では、開発の舞台裏と、そしてそこから見えてきた未来の店舗づくりについて、ECOALF国内ブランド責任者である下川雅敏さんとUACJプロジェクトメンバーが語ります。
第一弾記事
今回はエコアルフを展開する、三陽商会のオフィスへ、UACJグループの権藤・飯田がお邪魔しました。
プロジェクトの
きっかけは?
下川
ECOALFが2019年に日本に来てから、ちょうど5年。ブランドを今後さらに拡大していく上で、ファッションの魅力を体現する「空間」にも注目をしてきました。そんな中で、ご縁があってUACJの方と出会い、什器のご相談させていただいたのが始まりですね。
権藤
そうでしたね。UACJも素材+“α(アルファ)”をテーマとして新たなチャレンジを考えていたので、ご相談いただいたタイミングは願ってもいないチャンスでした。
飯田
下川さんは当初アルミニウムについてどんな印象をお持ちでしたか?
下川
アルミ缶…が最初に浮かびましたね。これで什器をどうやって作るんだろうと。
飯田
やはりそうですよね。
下川
でもお話を聞くと、アルミニウムはロケットや新幹線、大型自動車のボディにも使われていて、とても丈夫な素材だということを知って驚きました。
権藤
そうなんです。アルミニウムは丈夫なうえに、加工もしやすいのでアパレル什器にも応用できるのではないかと思いました。私もかつてアパレル業界にいた経験があるので、その知見も生かしつつ、開発チームの飯田さんに声をかけさせてもらいました。
飯田
プロジェクトの話をいただいた時は、全く未知の業界でしたが「なんだか楽しそう!」というのが素直な感想でした。
下川
“楽しそう”と言っていただけるのは、うれしいですね。やっぱりファッションはどこか楽しい、ワクワク感みたいなものがとても大切なので、そういう部分はコラボレーションでも大事にしてきたいです。
なぜアルミニウム?
相性が良い理由を教えて!
下川
一般的なアパレル什器は鉄やステンレス製が主流です。什器だけでも結構な重さがありますが、そこに服も加えると、持ち上げるのはかなり大変。
飯田
既存の什器を私も触らせてもらったんですが、とても重たかったです。軽さという意味では、アルミニウムと什器はとても相性がいいですね。
権藤
ECOALFは廃材を採用してファッションプロダクトを作っていて、完成したプロダクトは非常に軽いですし、おまけにすべてリサイクル素材です。アルミニウムも、軽い、リサイクル可能という部分で非常に似ている。これはマッチするなとピンときました。
下川
なるほど、たしかに似ていますね。
飯田
それに、アルミニウムは切断・穴あけなどの加工性が良く、お客さまのご要望に応じた形にしやすいのはメリットだと考えています。
下川
軽さと組み立てやすさ、後はスタイリッシュさというところはリクエストさせてもらいました。イベントの際に、各地への運搬も容易ですし、簡単に組み立てられればどんなスタッフでも扱える。
あとは今回リサイクルアルミというところも大きな魅力でした。サステナブルな素材はECOALFの信念でもありますし、他にはないものができるんじゃないかなと。
権藤
そこはUACJならではの強みだと思っています。普通のアルミ素材であれば他社でも実現可能ですが、リサイクルアルミでものづくりができるのは弊社を含め限られた会社のみです。
UACJではリサイクル材やグリーン電力由来の原料などを利用した、環境配慮型アルミ素材のブランド「ALmitas⁺ SMART(アルミタス スマート)」を展開しています。
飯田
今回制作のシューズタワーもALmitas⁺ SMARTを適用しています。マスバランス方式*でリサイクル材を適用することで、温室効果ガスを最大97%削減することも可能です。
※マスバランス方式:GHGプロトコルやISO22095規格などで定められている管理手法の一つ。さまざまな由来や性質を持つ原料・製品を混合して管理する手法。他の素材産業においても導入が進められている。
プロジェクト
どう進めていった?
飯田
お話をいただいてからまずは、既存の什器の課題をもとに設計案をお出ししました。
権藤
本体の大部分に再生アルミ板を使用したいということで、プロトタイプを1台作りました。実はこの「1台だけ作る」というのが、コストとの兼ね合いもありなかなか大変でした。
下川
ロットの問題はありますよね。特にサステナブル素材で作るとなるとコスト部分はネックになってきます。
権藤
まさに“挑戦”でしたね。現場や社内への調整は、飯田が文字通り社内を駆けずり回って熱く説得してくれました。
飯田
これまでにない新しい取り組み、だけど会社としても意味のある挑戦だ、ということを強調して伝えました。そこから設計担当や製造部の方たちと何度も打合せを行い、製作を進めていきました。再生アルミ板の材料を在庫していたこともあり、プロトタイプは超短期間で形にできました。
下川
完成したプロトタイプを見て、アルミニウムのイメージがガラッと私の中でも変わりました。
飯田
プロトタイプと本製品の加工仕上げ調整を行い、全部で5台を納品させていただきました。
下川
本来なら設計から製作全体で数ヶ月〜半年ぐらいかかるところを、今回はたった2ヶ月で納品までしてくださって。おかげで重要視していた新宿高島屋のポップアップイベントでお披露目ができました。
権藤
タイミングもありましたが、社内でもこのプロジェクトの意義に賛同してくれた方たちが多かったというのが、短納期を実現できた一番の要因だと思います。
アルミニウムで作るアパレル什器
そのこだわりは?
権藤
ネジやジョイント金具が表に目立つ、取り扱いが煩雑になるなど、見た目と操作性の両立が最初の壁でした。
飯田
そのあたりはかなり検証しましたよね。
権藤
我々のように日頃細かな部品に慣れている人間にとっては「簡単」でも、お店のスタッフの方が組み立てるのでは訳が違いますから。ネジや金具など極力減らす方向で、でも強度もしっかりと保つというバランスを現場ですりあわせました。
下川
一人で組み立て、撤収作業をすることもあるので、どんなスタッフでも扱えるというのはありがたいです。
飯田
一番気を遣ったところで言うと、仕上げの磨きや角の処理です。指先で触れても痛くないようにエッジを丸めたり。一つひとつの部品に対して磨き処理をして、店頭でお客さまがケガをしてしまわないようにと気を配りました。
下川
細やかなところまで考えていただいて、UACJさんのお仕事に対する「優しさ」を感じます。
飯田
ありがとうございます。普段の仕事では、機械の中の部品で使われるアルミニウムの仕事が多いので、人が触れる部分という前提はあまりないんです。新しい課題ではありましたけど、すごくいい勉強になりましたね。
下川
スタッフ用に説明書も作ってもらいましたよね。
飯田
はい。説明書を作るのは人生で初めてだったので、わかりやすく初めて見た人でも使えるように、他社の家具屋さんの説明書を参考にしました。
ついに完成!
シューズタワーの反応は?
下川
まず、何よりも軽い。素材としても、ナチュラルな質感が出て、これなら店舗の中でも馴染むだろうと思いました。
飯田
現場のスタッフさんからのお声はありましたか?
下川
はい。スタッフや百貨店の方からも、「この什器いいね」と言ってもらえることが多いです。「靴よりも什器が気になる」という声もあったり(笑)。
権藤
嬉しいお声ですね(笑)。
下川
私は、表面のちょっとヘアラインが入った優しい印象がすごく気に入ってます。最初はもっとギラついてしまうんじゃないかという心配があったのですが、全くそんなことはなく。むしろ馴染んでいるので、商品(靴)が際立ってくるというか。
権藤
その点に関して、私も気づきがあったんです。アパレル什器は一般的に黒なので、当然今回も黒で塗装するものと思っていたのですが、下川さんから「そのままでお願いします」と言われて、驚きました。
下川
アルミニウムの素地が見えるデザインにすることで、商品が鮮やかに、上品に見えるので、ブランドの世界観にも合うだろうと思ったんです。
権藤
今までにない視点だったので、なるほどなと。
下川
ECOALFはプロダクトの素材を大事にしているので、そこは残したいなと。せっかく「これはなんだろう?」と興味を持ってもらっても、元の素材がまったく感じられないとピンとこないので、アルミニウムそのままの質感は残したかったでんです。
飯田
お客さまとの会話のきっかけにもなるんですね。
完成したシューズタワー。アルミニウムの素材感をそのまま生かしたことで、ECOALFの特徴であるプロダクトのポイントカラーが映える。
今後の展開は?
下川
今後はハンガーや棚付き什器、スタンド型などアルミ什器のラインアップを増やしていきたいですね。
権藤
もう次のプロジェクトも動き出していますからね。第二弾としてハンガーラックとアルミシェルフが、伊勢丹新宿のポップアップイベントでお披露目です。
下川
第二弾も楽しみにしています!
2025年10月8日〜14日で開催された新宿伊勢丹でのポップアップイベント。新たなアルミ什器が導入された。
飯田
UACJグループ内でも今回のプロジェクトの反響は大きかったです。リサイクル材をどう活用していくかは、今後の戦略の大きな柱なので、ECOALFさんとの取り組みは良い成功事例になったと思っています。たぶん私がやってるどの仕事よりも注目度が高いです(笑)。
下川
いいですね。プロジェクトに関わっていただいた、皆さんに何かしら還元できているとしたらそれは私にとっても嬉しいことです。これは個人的な考えですが、アルミニウムで店舗自体を作ることや、何かお客さまにも持ち帰っていただけるプロダクトを作るのもいいなとも思っています。
飯田
アルミニウムでできたプロダクト、ぜひ取り組んでみたいです!
権藤
期待が膨らみますね。
ファッションから未来は
変えられる?
下川
変えられると思います。まずはそのためにもブランドとして、今後国内ではライフスタイル雑貨を中心に強化をしていきたいという思いがあります。
権藤
なぜライフスタイル雑貨なんでしょうか?
下川
サステナブルなブランドとして打ち出して、お客さまに共感していただいても、今持ってる服をすべてサステナブルなものに置き換えるというのはなかなかハードルが高いと思うんです。
飯田
そうですね。
下川
シューズや雑貨などは比較的入りやすい。サステナブルファッションを浸透させる“入口”になりうるという考えからです。
飯田
私たちも什器に限らず、ライフスタイルに関わるものづくり全体にアルミニウムの可能性を広げていけたら嬉しいです。
権藤
「新しい業界にどう入り込めるか」というのは、我々UACJとしても大きなテーマです。時間がかかっても、意味のある取り組みなら挑戦していきたいです。
下川
今後、他のブランドや百貨店全体でもサステナブル素材の什器導入が進めば、アパレルの店づくりそのものの基準が変わると私は思っています。だから今回のコラボレーションは決してクローズドなものではなく、ぜひ他社さんにも導入してもらいたいですし、シェアしたい事例です。
権藤
そんな懐の深いお言葉をいただけて本当にありがたく思います。UACJとしても、リサイクルアルミ素材の優位性をもっとアピールして、設計・加工・仕上げまで一気通貫で対応できること、そしてリサイクルアルミという強みを持って、広げていきたいです。
下川
こういう取り組みから、一歩一歩根付かせていきたいですね。そうすれば、ファッション業界を起点に、未来は変えていけるはずですから。
権藤
まずは、ECOALFさんと一緒に成果を積み重ねながらですね。
飯田
これからもよろしくお願いいたします。
下川
はい、一緒に頑張っていきましょう!
権藤
飯田
ありがとうございました!
AFTER INTERVIEW
UACJ 権藤 隆範
かつて携わっていたアパレル業界でまた仕事ができるとは想像してなかったので、ECOALF下川さんとの出会いは非常に驚きでした。共に「素材」を機能的にも意匠的にも設計・デザインするという意味では同じ。アパレルでもアルミニウムでも「廃棄する」という概念がなくなればいいなと考えました。このコラボレーションは成功させたいですね!
Profile
新領域開発部で、新規事業ブランド「origami」を推進しています。開発した製品でフェーズフリーな空間を提供できるよう、顧客や工場を走り回っています。
UACJ金属加工
飯田 あいり
下川さんとのお話を通じて、改めてアルミニウムという素材のどこを魅力的に感じていただけているのかを実感することができました。初めてのアパレル業界のお客様、初めての店舗什器製作、初めてのリサイクル材を活用した製品の販売と、まさに“初めて”尽くしで、難しくも楽しいお仕事でした。できるところから少しずつ、リサイクルアルミの輪を広げていきたいです。
Profile
押出・加工品事業部で営業を担当しています。アルミニウムの加工を通じて、アルミニウムの可能性を日々模索中!
ALmitas⁺
ブランドサイトはこちら
https://almitas.uacj-group.com
※こちらに掲載している情報は取材当時のものです
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