RESEARCH
もしも明日ハチミツが
食べられなくなったら?
生物多様性について今日知りたいこと
食べられなくなったら?
生物多様性について今日知りたいこと

Featuring
鹿島建設株式会社
技術研究所
中川 考介さん
技術研究所
中川 考介さん

Interviewer
UACJ 本川 幸翁

Interviewer
UACJ 濱口 明子

Interviewer
UACJ 下村 佳意
スーパーの棚から、ハチミツやコーヒーがなくなる、鮮魚コーナーには一種類の魚しか並ばなくなる——。もしも、そんな現実があなたの日常に訪れたなら?
今回は、そんな私たちの生活とも密接に関わりのある「生物多様性」について、日本の森や自然の再生をリードする鹿島建設の中川氏をお迎えして、UACJのメンバーと語り合います。企業が自然環境、生物多様性のためにできること、そしてアルミニウムと水、地域自然まで、一見遠いようで実は地続きにある深い関係とは?
今回は、そんな私たちの生活とも密接に関わりのある「生物多様性」について、日本の森や自然の再生をリードする鹿島建設の中川氏をお迎えして、UACJのメンバーと語り合います。企業が自然環境、生物多様性のためにできること、そしてアルミニウムと水、地域自然まで、一見遠いようで実は地続きにある深い関係とは?


今回やってきたのは、小山製作所からほど近い東島田ふるさとの森。緑あふれるこの場所で中川さんと待ち合わせ、対話がスタートです。実は中川さん、昨年までUACJの環境コンサルティングを担っていたご縁もあり、久しぶりの再会です!


そもそも
「生物多様性」ってなに?
「生物多様性」ってなに?

中川氏(以下、中川)
一言で言えば、生き物の世界にある「違い」や「つながり」の豊かさのことです。専門的には、遺伝子の違い、種の違い、そして森や川、海といった生態系の違いまで、いくつかの階層で捉えます。「生物多様性」という言葉が広く使われるようになったのは1980年代以降ですが、生き物の多様さが生態系を支えているという考え方自体は、以前から議論されてきた歴史あるテーマです。

下村
言葉自体は知っていましたが、そんなに古くからあるとは知りませんでした。

本川
「ネイチャーポジティブ」という言葉も、最近よく聞きますね。

中川
そちらは比較的新しいもので、2021年のG7を機に「2030年までに自然の損失を止めて回復に向かわせよう」という国際的な方向性が提示されたことから広がった言葉です。

濱口
環境分野だけではなく、ビジネスの場でも生物多様性やネイチャーポジティブという言葉が使われるようになったのはなぜでしょう。

中川
自然を“保護する対象”から、私たちの生活や文化・経済活動を支える“すべての基盤”にあるものとして捉え直す動きがあり、金融や経済界からも注目が高まってきています。

濱口
なるほど!


生物多様性
影響はどこに?
影響はどこに?

中川
私たちの生活に関わるところだと、毎日の食卓に影響が出る可能性があります。例えば、ハチミツやコーヒーがなくなったり、食べられる魚の種類が減ったり。

下村
生物多様性とハチミツ、魚…それは、どうつながっているのでしょうか?

中川
私たちの暮らしは、さまざまな生き物と、それを取り巻く水・土・森・海などの環境が互いに関わり合う「生態系」の上に成り立っています。例えばミツバチなどの昆虫が花粉を運ぶことで、多くの植物は実をつけます。その結果、果物や野菜が育ち、ハチミツも得られます。環境変化によってミツバチが減少すると、食卓の様子も大きく変化します。


下村
巡り巡って私たちの生活にも影響が出てくるんですね!

中川
はい。魚も同じです。雨は森や土に浸み込み、湧き水や川の流れとなって海へつながっていきます。その過程で運ばれる水や栄養分は、川や沿岸の生き物を支える大切な基盤になります。こうした自然のつながり、システムに歪みが出れば、獲れる魚の種類や量にも影響が出るというわけです。

本川
以前に中川さんがおっしゃっていた「リベット仮説」がとても印象的です。

中川
生態系を飛行機に、そして個々の種を飛行機の翼を留めているリベット、つまり留め具に例えた考え方ですね。リベットが一つ外れただけでは、飛行機はすぐには落ちないかもしれません。しかし、それが二つ、三つと失われていった時、どこかで飛び続ける力が大きく損なわれるかもしれない。それを、生き物と生態系の関係に当てはめた考え方です。

本川
一つの部品が欠損しただけでは飛行に支障はないけれど、ある一定の量や複数種類が欠損すると飛べなくなる…。これを生態系に置き換えると、「◯◯が食べられなくなる」という事象につながってくる気がします。

下村
私たちの生活って、実はとても繊細なバランスの上に成り立っているんですね。

中川
そうですね。リベットが一つ外れても、飛行機はすぐには落ちないかもしれません。しかし、生き物の種が少しずつ失われていくことで、生態系が本来持っていた安定性や回復力が弱まっていきます。そして、ある閾値を超えた時に、急に大きな影響として現れる可能性がある。それがいつ起きるか分からないところに、この問題の怖さがあります。
実はユニーク!
日本人と自然の
関係って?
日本人と自然の
関係って?

中川
日本は世界的に見ても、とても独自な環境です。国土や気候を見ても南北の長さや気温、標高の差などがあって、生き物の種類も多様なホットスポット。そういった環境では、人々や社会の自然との付き合い方もユニークです。

濱口
付き合い方とおっしゃると?

中川
人と自然が完全に分断されていないということです。自然があって、暮らし、地域社会、文化がグラデーションのように存在している。それを裏付けるように、世界の自然は手付かずの所も多いですが、日本の自然のほとんどは人の手が加わっています。

下村
そう言われてみると、里山や水田みたいな私たち日本人が自然としてイメージするものは、すべて人の手が加えられていますね。

中川
まさにそうなんです!

濱口
欧米では日本に比べて動物や環境保護活動が盛んに行われていますが、その理由も自然との付き合い方の違いが関係しているように思います。

下村
たしかに。「環境を守ろう!」と突然言われると、あまりピンときませんが、それは日本では自然を“保護する対象”として分断していないだけで、欧米では分断して考えているという違いからかもしれないですね。

中川
ただ、人新世*という言葉もあるように、人間の影響が地球規模で大きくなった今、自然との距離感を大切にしつつ、意識的にケアしていくという視点も重要だと思います。

下村
とてもおもしろいですね。国や地域によって付き合い方はそれぞれなのだと気付かされます。
*人新世(ひとしんせい)…人類の活動が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代



自然のために、
企業ができることは?
企業ができることは?

中川
まず、企業活動が自然へ及ぼす影響がどの程度か、どれだけ自然からの恩恵の上に成り立っているかを知り、企業と自然との関わり方を自分ごととして捉えることが重要です。UACJでも、さまざまな方法で調査をされてきましたよね。


本川
はい。4〜5年ほど前に、CDP(*1)を通して環境への悪影響低減の取り組みをスコアリングすることから始めました。そのスコアをベースとして、価値向上へつなげるための活動を検討しています。

中川
製造所が周辺環境へ与える影響に関する調査には、私も一緒に参加させてもらいました。あと、経営層の方々へ向けた勉強会も実施しましたよね。

本川
はい。経営層の理解が早い段階で得られたため、今、生物多様性や環境に関する話題が、経営テーマとして挙がってきているのだと思います。

濱口
中川さんのお力添えもあり、ようやく弊社も昨年からTNFD(*2)に沿った開示を公表することができました。

中川
そうですね!

濱口
はい。とはいえTNFDに沿った開示はあくまでも企業としてのネイチャーポジティブへ本格的に取り組むスタートラインだと認識しています。ここから、どういった取り組みをしていくのか、今後考えていくための礎としていきたいなと思います。
*1 CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト):企業に「気候変動」や「水セキュリティ」、「森林保全」といった環境情報の開示を促し、評価する国際的な非営利団体。
*2 TNFD:自然関連財務情報開示。企業が自然資本や生物多様性に関わるリスクや機会を把握し、それらの影響を財務的な観点から情報開示するための国際的な枠組み。
*2 TNFD:自然関連財務情報開示。企業が自然資本や生物多様性に関わるリスクや機会を把握し、それらの影響を財務的な観点から情報開示するための国際的な枠組み。

企業の環境への
取り組み例を教えて!
取り組み例を教えて!

中川
大きくは2つの取り組みアプローチがあります。一つは、その企業の本業で貢献していくこと。そしてもう一つは、地域活動や社会貢献のように、本業から少し離れたところで自然や地域との関係を育てていくことです。

下村
本業での取り組みというと、鹿島建設さんはどのようなことをしているんでしょうか。


中川
鹿島建設は1840年創業の総合建設企業です。グループ全体で全国49カ所、約5,500haの社有林を保有しています。この社有林を適切に管理し、最近では社有林から伐出した木材を、当社や顧客の施設に活用することにも挑戦しています。これも、本業でのアプローチの一つと言えると思います。

下村
社有林を保有している企業は珍しくありませんが、100年以上前、しかも全国規模で森を守っている例というのは、なかなかないですよね。

中川
取り組みの本格的な始まりは、戦後当時の社長 鹿島守之助が、「荒れ果てた森林を再建することこそ、国家再興の基礎である」という信念のもとに森林経営に乗り出したことがルーツにあると聞いています。その後、鉄道事業の発展に伴い、枕木を確保するために社有林が広がっていったそうです。

本川
なるほど。

中川
建設業はどうしても土地を改変したり、影響を与えたりしてしまう仕事ですから、自然への責任があるものです。企業としてしっかりとそこに向き合っていく姿勢が、100年以上前からDNAとして刻まれているのだと思います。

下村
私たちUACJも、アルミニウムという資源を扱い、製造過程で多くの水を使います。決して他人ごとではないように思いますね。

濱口
悪い影響を減らすだけでなく、積極的に自然を豊かにするネイチャーポジティブの姿勢も、これからは企業に求められていくんでしょうね。

中川
そうですね。鹿島建設の場合、社有林管理で培った知見を、森林や土地活用のプランニングにも生かしています。お客さまのビルの緑化や、地域の土地再生プロジェクトなどに、長年蓄積してきたノウハウやデータを還元していく。これも、本業を通じた環境への関わり方だと思います。

下村
なるほど。木材を使うだけではなく、森林や土地をどう生かすかというところまで、本業の知見として展開しているんですね。


直接の事業外でできる
環境の取り組みとは?
環境の取り組みとは?

中川
例えば、操業地域での環境学習などのイベントの開催があります。一見すると本業から離れた社会貢献に見えるかもしれませんが、自然環境への取り組みは、地域との関係づくりとも切り離せません。

本川
おっしゃる通りだと思います。直接的ではないけれど、自然環境へ寄与する部分が大きいですよね。

中川
はい。地域の人たちと一緒に、その土地の自然を知り、守っていくことが、長期的には企業が地域と信頼関係を築く土台にもなると思います。

下村
UACJでも稲荷祭などの地域祭を各製造所で開催していますよね。あとは、製造所の周辺でのクリーンアップ活動なども実施しています。

中川
大切なのは、本業とそれ以外からのアプローチ、そのどちらも両輪で回していくこと。しっかりと本業で環境への貢献を継続的に行いながら、長期的な視点でのアプローチも行なっていくのがポイントだと思います。

UACJ
今後の取り組みは?
今後の取り組みは?

本川
第4次中期経営計画では「生物多様性」をキーワードに入れ、まずは自分たちの製造現場と自然がどこでつながっているかを考え、そこから大きなテーマである「水」にたどりつきました。

下村
アルミニウム製造に水は欠かせない存在なので、その「水」をテーマに、まずは製造所周辺の自然環境への貢献から考えていくことを目標に掲げています。

中川
工場が立地している場所には、必ずその土地が成立した長い歴史と生態系の文脈があります。地域の水循環を深掘りすることは、渇水などのリスクに備える経営の守りにもなりますよね。


本川
アルミニウムのリサイクルというのも、実は生物多様性に貢献していますよね?

中川
絶大な貢献です!新しくボーキサイトを掘り起こせば、広大な森林を転換することになりますから。リサイクルを進めることで、その開発を未然に防ぎ、CO2も大幅に減らせる。今までは「資源の節約」という文脈でしたが、これからはネイチャーポジティブの視点でもっとアピールしてもいいんじゃないでしょうか。

本川
なるほど。ありがとうございます。

濱口
UACJでは新幹線の廃材を活用したアルミ製のストローなども製作しています。一般の方へリサイクルを身近に感じてもらい、自然に目を向けていただく一つのきっかけとしてとてもいいものなんじゃないかなと。

中川
すばらしいですね。知識として知るだけでなく、実際に触れたり、貢献したりする経験を提供するということも、本業に限らないアプローチの一つだと思います。


未来の
活動の鍵は?
活動の鍵は?

本川
UACJとして今後注力していきたいのはやはりリサイクルです。これは自然環境に与える影響の大きさという観点でも重視しています。分別回収を徹底し、国内で循環させていく仕組みづくりは、アルミニウムを扱う企業だからこそ取り組むべきだなと。

中川
アルミニウムは何度でも生まれ変われるすばらしい素材ですから、これは循環型社会の大きな武器ですね。

濱口
あとは、もっと地域に着目する必要もあると感じています。やはり事業所ごとに地域性も課題も異なるので、地域ごとの自然管理の課題を捉えていく必要があるのかなと。

中川
これは私自身も感じることなのですが、「楽しさ」というのも大事な要素だと思います。お客さまと現場を歩くと、皆さんすごく楽しそうに自然と触れ合い、生き物を探されるんですよ。

濱口
地域の皆さんにしかわからない価値というのもまたあると思うので、アイデアを出しながら、もっと地域とつながりを深めていきたいです。

中川
取り組みのビジネス的な意義も必要ですが、最終的には自分にとっての「心地よさ」や「ワクワク」が継続の力になります。UACJらしい、地域の自然との付き合い方を期待しています!

本川
ありがとうございます。素材の可能性と、今日学んだ自然への向き合い方を掛け合わせて、新しい価値を作っていきたいです。

中川
期待しています。
一同: ありがとうございます。
一同: ありがとうございます。



AFTER INTERVIEW

UACJ 本川 幸翁
中川さんには以前、UACJにて生物多様性セミナーの講師を務めていただきました。久しぶりにお会いし、豊富な知識に裏付けられた興味深い話に再び聞き入ってしまいました。鹿島建設さんが森林保全の取り組みに熱心に取り組んでおられることも初めて知り、有意義な対談となりました。
Profile
「未来へ環境をつなぐ部」で活動しています。自宅から車で少し足をのばすと、豊富な水をたたえている木曽川があり、犬山城との組み合わせは見ていて飽きないです。

UACJ 濱口 明子
実は中川さんは「自称生物多様性マニアです」、と事前情報でお伺いしていましたが、マニアどころか学者さんともいえる専門知識の宝庫で、楽しいお話は本当に勉強と気付きをいただきました。特に、「生物多様性の取り組みは、本業はもちろん地域からのアプローチも大事」というところは印象的で、しっかり考えていきたいと思いました。
Profile
サステナビリティ企画部に所属している、イルカとシロクマが好きで、小学生の息子よりも虫取りが得意な母さんです。アルミニウムのように錆びにくく、軽いからだが欲しい今日この頃です。

UACJ 下村 佳意
中川さんは生物多様性について非常にお詳しいと伺っていましたが、どのような質問にもすぐに答えられていてとても勉強になりました。自分の知識不足を痛感し、よりさまざまな情報を調べるようにしています。気候変動対策や資源循環といったUACJの他のマテリアリティと、いかに結び付けていけるかが今後の重要な課題になるように感じました。
Profile
「未来へ環境をつなぐ部」で活動しています。以前勤務していた福井製造所周辺の自然は豊かであり、うまく工場と自然が共存できないか考えています。
※こちらに掲載している情報は取材当時のものです





